2004年11月21日

グルメでややこしい夜話

東洋文庫の『甲子夜話』なんぞ読んでいる。なんてヒマな32歳だ。

甲子夜話

そのなかに島津重豪(18世紀後半の殿様)が江戸屋敷に九鬼侯などを呼んで卓袱料理で饗応した折の記録がある。面倒だけどおもしろいので引用してみようと思う。漢字が難しいものはカタカナで書く。ぼくと同様、ヒマでヒマで仕方がない奇特な人は原典にでもあたってみてください。

 卓子
 紙包 箸子 籤牙 湯瓢 酒鐘 セツ児

 小菜
 八重山海鼠 鯔南京焼 薯蕷 草石蚕

 小菜
 紅魚肉円 小鮑 河茸 九年甫

 小菜
 寒完

 小菜
 烏賊 笋 山椒芽和

 小菜
 煎豚 辛子

 小菜
 粕漬鰤 粕漬鮎子 赤貝塩辛 茎薑

 小菜
 団子

 小菜
 砂糖漬天門冬 梨コウ 氷砂糖 京橘

 茶
 貴円

  大菜 次序

 第一椀
 鯛 神馬藻 赤卵 葉山椒 飯 紅白 小菜 地漬蘿蔔 塩漬菜

 第二椀
 油鴨 松茸 笋 抜菜 茗荷

 第三椀
 鮮魚片 鮪 鮃 防風 紫蘇 蘿蔔 点心 鶏蚕コウ 朧饅頭 常盤実

 第四椀
 鱧餅 飛龍頭 藕 百合根 蕨 紅落花生

 第五椀
 鶏 牛蒡 舞茸 蕗 野蜀葵 海粉

 第六椀
 乾醤湯 甘鯛 芋茎 岩茸 水山椒 飯 唐水糖 西国米


「卓袱」の原義はもともとテーブルクロスのことだと聞いたことがある。長崎の料理だとばかり思っていたが、薩摩でこんなに本格的な唐風の料理が作られていたとはかなり驚きだ。島津重豪は中国語をよくしたことで有名な人物なので、こんなハイカラな料理が好きだったのかもしれない。

いくつかわからない単語もあるが、いかにも卓袱な料理をいくつかピックアップして調べてみた。

「卓子」というのはテーブルセッティングのことらしい。お箸や食器は紙に包んでセッティングしたようだ(「紙包」とある)。「籤牙」はつまようじ、「酒鐘」は酒盃、「セツ児」は小皿のこと。「湯瓢」というのはレンゲのことだと思う。
「草石蚕」はチョロギという紫蘇の一種で薬草。島津重豪の『南山俗語考』で調べてみると「紅魚」は鯛のことのようだから「紅魚肉円」は鯛のすり身の団子だと思う。美味そうだ。
「寒完」はなにかわからない。ご存知の方いませんか? ひょっとすると寒天の誤記かもしれないが。「天門冬」は薬草の一種。

メニューの中にちょいちょい甘いものが出てくる。「梨コウ」もそう。餅の一種なのだが、このブログでは蒸しパンみたいなお菓子を紹介してある。この「コウ」ってのは奥が深いお菓子なので、いつかまとめて書いてみたいけど今回ははしょって先に行こう。

お茶の「貴円」ってのがどうにも難しい。中国茶なのかと思っていろいろ調べてみたけどわからない。貴州茶かとも思ったが、そんなに遠くから日本に中国茶が渡ってきたとも考えにくい。その頃のお茶事情もわからないし。いまでこそ貴州茶は有名だけど。いまのところヒントもないしまったくお手上げだが、是非調べてみたい。

主菜は六椀。
まず鯛がメインの第一椀。「赤卵」はイクラのことだと思うが「神馬藻」はわからない。それにしても、まずご飯を食うとは! お茶漬けでもして食った感じの料理の内容だ。

第二椀。『南山俗語考』によると「油鴨」はアヒルか鴨を油で炒めたもので、まさに中華料理。炒めるときには何を使ったんだろう。鉄鍋などあったのだろうか?

第三椀。「鮮魚片」はお刺身のこと。「常盤実」はわかるようでわからない。「鶏蚕コウ」ってのは鶏卵そうめんのこと?あるいはカステラか??

第四椀。「鱧餅」ってのは、鱧のすり身で作ったはんぺんだろう。

第五椀。「海粉」ってのはなんだろうな。わからない。ここまでみるとメインに必ず珍しい菜っ葉系の料理が添えられたのが分かる。これが当時の流行だったらしい。『南山俗語考』によると「野蜀葵」はミツバセリとのこと。

第六椀。「乾醤湯」はお味噌汁の中国風の呼び名。「水山椒」「唐水糖」がよくわからない。「西国米」はなんとタピオカのようだ。もともとはサゴヤシという裸子植物の幹からでんぷんを取って精製し粒状にしたものだが、いまではキャッサバ芋が原料だ。この当時は薩摩が沖縄を経由して輸入していたのだと思う。

+ + +

江戸時代に料理や製菓の技術は大幅に進歩した。とくにこの卓袱料理リストは読めば読むほど、調べれば調べるほど素晴らしい。島津重豪自身がどれほど調理技術の事をよく知っていたかは正確にはわからないけれども、仲間の殿様に珍しいものを食べさせて自慢したのだろうから、相当のグルマンだったのだろう。

とくに島津は沖縄を通して大陸とも交易があったわけで、かなりハイカラな土地柄だったはずだ。ハイカラ度は、あるいは長崎以上だったかもしれない。薩摩の文献にも意識して目を通すようにしたい。


posted by dubwise at 01:41| Comment(0) | TrackBack(0) | gastronomia | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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